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【後編】公開相談会!西口一希氏にPMF達成を相談してみた~戦略や計画よりも大切なもの~

現場仕事に特化したビデオ通話アプリSynQ Remote(シンクリモート)を開発・提供するクアンドは2022年末にプレシリーズAの資金調達を完了、現場に必要な知識や技術がいつでもどこでも供給される世界の実現に向けてプロダクトを発展させるため、エンジニアやデザイナー、セールスを中心とした採用に注力しています。

今回の調達では著名なエンジェル投資家の方々がクアンドの仲間に加わってくださいました。その方々の熱い想いを聞かせてもらう対談シリーズ企画、初回はマーケティング業界の巨匠、西口一希さんとのほろ酔い対談です。

前編をまだ読んでいない方はこちら

ターゲットの正解は1つじゃない

どういうことかもう少し詳しく教えてください!!

例えば、ロクシタンはギフト戦略を中心にしているけど、これも外れ値から見つけたもの。当時、ロクシタンを年に数百万円も購入しているスーパーロイヤルユーザーを調査するとバレエ教室の先生だった。店舗のスタッフに聞くと、その先生は毎月、生徒に誕生日プレゼントを配っていて、クリスマスも合わせると年に13回大量にギフト向け商品を購入されている。スタッフは「お客様がみんなバレエの先生だといいのに」と笑ってた。これを例外と捉えるか、捉えないかが大きな分かれ道。

一方で、離反ユーザーを見てみると、自宅、オフィス、カバンなど色々なところにすでにロクシタンの製品を置いていて「もう身体に塗るところがないわ」と自分用の製品は買いつくして飽和している状態だった。そして、「製品に興味があるが買ってない層」を調べると「ロクシタンは憧れだけど高いので、貰い物は使っているが、自分では買わない」という意見だった。

自分向けには買い続けられない、自分向けには勿体ない、バレエの先生は、毎月、生徒に誕生日プレゼントをあげている……これらを繋ぐのは全て他人への「ギフトニーズ」なんですよ。これを「バレエの先生で生徒全員に配るようなユーザーは特殊」と思考をそこで停止すると終わりだけど、その先にある本質的な課題や便益を見つけ、他の人にとっても良いインサイトあるのではないかと洞察することが大切。この洞察力は慣れであり、身に着けられるもの。真面目な人ほど外れ値が来ちゃうと握りつぶしてしまって、意思決定者・経営者まで情報が上がらない。いや、上げたとしても、「へー、面白いね」で終わる。外れ値にこそ最大の注力を払うべき。

でも外れ値が本当に外れている場合もありそうで怖いです。

それは多くの人が「自分のビジネスのお客様を1種類だ」と思っているから。正解の顧客ターゲットや便益を1つだと思わない方がいい。多くの会社が自分で頭の中に限界を作っている。それにより色々な躊躇が生まれている。試行錯誤の末、結果として1つのターゲットに対する1つの便益に落ち着くかもしれないが、最初から1つに決まっていることはない。

スターバックスの成功要因を「第三の場所~3rd place~」にしたからと言うMBAのケースがあるが、それが後解釈であって成功要因ではない。もともと、スターバックスはハワード・シュルツがスターバックスの母体である豆の焙煎の会社で働いているときにスタンディングバーを始めたけど、その拡大を会社に提案したが受け入れられずに独立、その後に、商標と店舗を焙煎の会社から買収して始めた歴史がある。スタンディングバーで待っている時間に椅子置いたことが、いまに繋がる。最初から3rd palceを狙ってスターバックスを作ったわけではないし、そういうお客様だけが正解ではない。そもそもスターバックスの売上の半分以上は持ち帰りです。みなさん、お客様を見ずに、目につく派手な表面や素敵な成功ストーリーだけを見ている

ビジネスの成功事例は、その結果だけを見て整合性を合わせようとするから、その裏にあった試行錯誤や右往左往したことが無視される。そういう試行錯誤も全部含めて最終的に当たってるわけで。選択と集中で1つに絞るってよく言うけど、それで成功したケースを見たことがあまりない。だいたい3~5個ぐらい並行して走らせていて、そのうち1つが当たって、そこに投資を集中させている。その1つの成功が目立ち、失敗は目立たないので間違った認知を生んでしまう。

なるほど。。。ただ、そのメンタリティを経営トップが持つのは度胸がいりそうですね

僕も論理と戦略議論の強いP&Gからロート製薬に行ってびっくりしたんだけど、ロート製薬には戦略っぽいものが一切なかった。山田社長(現会長)に「戦略なんていらん。戦略なんて作った瞬間に陳腐化するわ」「PG流はいらん」と言われたことが衝撃だった。じゃあ、何するんですか、なんで私を採用したんですか、と(笑)。後で、その意図がわかるんですけどね。それは、本に書きました。

サービスや製品開発って、出発はターゲットや便益を仮説で立ててスタートするんだけど、便益や使用習慣は勝手に顧客が開発してくれるんですよ。モノを作る前に戦略を策定し、そのプランに従ってアクションを実行してビジネスが当たる場合もあるけど、大抵のビジネスは想定とは違う使い方をされたり、違う部分が評価されて、そんな使い方しますか!?っていう、想定外、異常値、外れ値がビジネスを大きくする

そういうフィードバックを早い段階で現場から得て、それをメインに投資するのが大きな勝ちパターンだと思っている。現在のWHO・WAHTの組み合わせで2~3年後に成長し続けていると考えない方がいい。ほとんどが最初想定してないことから広がる。変化し続けるカオスを泳ぎ続ける気持ちじゃないとだめだ。

戦略論に振り回されない

頭ではわかってても、不安になるんですよね。。。

確かにそういった経験をしたことがないと、すごい不安になるんですよ。凄い分かります、僕も最初すっごい不安だったんで。でも、日々色々なアクションや外部要因でユーザーの行動や心理状態は変わるので、大きな方向性(プロダクトビジョンなど)は決めていくけど、次に何をする、どちらに行くというのはそのダイナミクス(顧客の動態)の中で決めるべき。そして、顧客が変化してしまったら、長らくやってきたことでも捨てる気持ちで朝令暮改する。

今のスタートアップは大手企業や上がった状態のGoogleやSalesforceが実行していると喧伝するような戦略論に振り回されている気がする。事前に絵を描いて、描いた絵の通り進まないと気持ち悪い。とりあえずわーっていっちゃうのは慣れが必要だし、これはやってみないと分からないけど、やってみると怖いものではなく、むしろ面白いんですよ。

西口さんからその発言が出てくるとは意外です。そういうメンタリティを社内に作ることも大切そうですねが、そういうチーム作りはどうやってましたか?

自分もできていたかというと自信はないんだけども、僕はシンクロという会社が好きなんですよ。あそこの社員はバックパッカーばかりなんです。彼らの思考回路って言い方悪いけど「出たとこ勝負」。バックパッカーマインドなんです。例えば、チベットで寺院見たいです!と決めたら、あとは何も決めず、その場その場で起こるイベントを発生させながら、進んでいく。死にかけるような危ない目にも合うこともあるけど、何回か超えた人ってそれでいけるもんだってわかるようになる。

そういう文化なので、朝令暮改OK。最初に決めたことはおそらく正解じゃないんですよ。いまのクアンドがだんだん誰に、何を提供しているのか分からなくなってきたというのは良い兆候で、想定外のことが起きている証拠。そこに大きなマーケットが出てくると思いますよ!

実はこういったことも、N1マーケティングの本でいう「カスタマーダイナミクス」という概念で書いてるんだけど伝わらないんだよなー。僕の本は実は戦略を作ろう!ということではなく、戦争でもないのに戦略とか振り回すのはやめて、顧客の現実を直視して、顧客になりきって、現実主義でありましょうという話をしてるんですよね。

トップがカオスを泳ぐ

西口さんの本でも勉強させてもらってます。西口さんが支援している会社はいくつかあるそうですが、伸びてる会社と、成長が鈍化する会社の違いはどこにありますか? 

トップがお客様に対して興味があるか、ないかですかね。自分の思い込みだけで行こうとして、一時的にうまく行っても、お客様を見ないし、その話を聞かない会社は伸びない。自分のゲームプランでゲームを高い展覧席からマイクで指示する監督みたいな立ち位置になっている。現場までおりて、目の前で選手とボールをみて、時には自分でボールを蹴らないといけないんじゃないかな。芝生の状態が想定とは全然違うかもしれないし、選手の表情が何かを言っているかもしれない。そうなると戦略なるものも変更しないといけないのに。答えは現場、お客様にしかない。伸びている会社はそうしています。

お客様に聞けば自動で答えが出てくるわけではないが、その奥にあるインサイトをトップが現場で見つけることが重要なんです。

クアンドに投資した理由は?

2つあります。1つは意外とこういうプロダクトがないなと思ったこと。テクノロジー的には凄くアドバンスではないと思うが、愚直にこんな現場向けに作っているサービスはなかなかないなと。そして、今クアンドが見ている市場以外でも広がりがありそうだなとポテンシャルの大きさを感じたこと。

もう1つが下岡さんの話が現場の話、具体の話が多かったこと。トップが現場を歩いて、現場と話しているというのがよかった。戦略とか1兆円の市場規模とかばっかり言っている経営者はよくないと思う。クアンドは現場起点ですべてを話しているし、現場感をめっちゃ持っている。

正直、今見ている市場やプロダクトが本当にビジネスとして大きくなるか分からないですけど、現場を見て、カオスを泳ぐトップがいれば、いずれ大当たりを見つけられると思った。

カオスを泳ぐにしてもなにかの指針を持ってないと本当にカオスで収拾つかなくなるので、9segsやN1分析はその指針となるコンパスを提供しているつもり。でもそれは地図ではないので、何が起こるかは行ってみないと分からない。

いつも不思議に思うんだけど、人って想定通りにいかないと不安を感じるんですよね。でも冷静に考えたら、誰の人生も、そもそも想定通りにいってないはず。でも、こと仕事に関しては、計画したものを、計画通りに行かせたい。計画通りに行かないと嫌だからもっと計画する。計画したのに、現実が計画外にブレると不安になって、体が硬直する。いやむしろ、そもそも計画通りにいかないことを前提にすると気が楽になって、手足もよく動くと思うのです。

それはきっと勉強や受験の延長線で仕事を捉えているからじゃないかなと思いますね。正しくやれば1つの正解にたどり着くはず。仕事を恋愛の延長線には捉えないじゃないですか。人生は不確定な恋愛的要素が強いのに。

おお、恋愛ですか!なんかスゴイこといいはじめた!!
それ締めの言葉にしよう!!

いやいや(笑)でもカオスに耐えられる精神って大切ですね!

ビジネスの可能性は1種類ではないんですよ。WHOとWAHTの組み合わせは複数種類あるし、思った通りに行かないのがほとんど。でもそのうまくいかなくなっているところに本当のプロダクトの価値が見つかることが多い。大成功する手前はたいていカオス。それが面白いんですよ。

今日は今のクアンドにとってとても重要なアドバイスをありがとうございました!これからもサポートよろしくお願いします!


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