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M&Aで切り開く地域産業の可能性~自動車教習所業界で革新を続ける「ミナミホールディングス」と「クアンド」が語る新たな挑戦~【前編】
今回の対談では、自動車教習所業界で革新を続けるミナミホールディングス代表の江上喜朗氏とクアンド代表の下岡純一郎が、事業再編や地域産業の未来について語りました。
対談者のご紹介
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自動車教習所という「斜陽産業」をV字回復させた実績を持つ変革者。物流業界へのM&Aやオンライン教習所、さらには海外市場への進出など、多角化経営を通じて新たな産業モデルを実現しつつある。
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北九州市出身。九州大学/京都大学大学院卒業後、P&Gにて消費財工場の生産管理・工場ライン立ち上げ・商品企画に従事。その後、博報堂コンサルティングに転職し、ブランディング・マーケティング領域でのコンサルティング業に従事。2017年に地元福岡にUターンし、株式会社クアンドを創業。家業の建設設備会社の取締役も兼任する。
事業承継のきっかけ
下岡:江上さん、まずは事業について簡単に教えていただけますか?
江上:はい。ミナミホールディングスは10社を束ねるホールディングスカンパニーです。13年前にアトツギとして「南福岡自動車学校」を継ぎました。
ミナミホールディングス株式会社とは、1956年創業、福岡県大野城市で、自動車学校事業のほか、自動車教習所コンサルティング事業(DON!DON!ドライブや教習所求人ナビなど自動車教習所をサポート)、AI教習事業(株式会社ティアフォーと共同で開発したAI教習システムの提供)、海外事業(カンボジアやベトナムを拠点に教習所を展開)、起業スタートアップのシード期支援事業(ミナミインキュベート株式会社)、サウナ事業(福岡市天神SHIAGARU SAUNA運営)等多数の事業を展開しているホールディングスカンパニー。
下岡:江上さんは、もともと後継ぎになる予定だったんですか?
江上:漠然と頭にはあったものの、まずは別の道を進んでいて、最終的に実家を継ぐことを選びました。大学卒業後は、リクルートに惚れて入社したのですが、28歳の時、その会社(リクルートの子会社)が全く知らない富山のシステム会社に売却されてしまったんです。そのときの上司たちとは価値観が合わず、先輩と一緒に独立を決意して、ベンチャー企業で挑戦を続け、経営経験を少しずつ積んでいきました。
その後、30歳のとき心筋梗塞になり、緊急手術を受けて東京で療養生活を送りました。手術後、療養中に少しずつ家業を手伝うようになり、そこで会社の現状を目の当たりにします。中を見たら業績だけではなく、18歳人口減などの外部環境の変化が重なり、いろいろと問題を抱えていて、「これは何とかしないと」と思ったのがきっかけでした。
下岡:会社の実態を見ると様々な課題に気づき、急に責任感が出てきたんですね。その気持ちはとても分かります。
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江上:下岡さんは建設会社をM&Aしたとのことで、ITスタートアップであるクアンドが、なぜ建設会社をM&Aしたのですか?
下岡:建設業は就労者が年々減っていく一方で、実は仕事の量は右肩上がりに上がっていて、労働力の需給バランスが大きく崩れています。そのような状況下で、僕たちはこれまで、人手不足を補うために”現場特化型ビデオ通話アプリ”「SynQRemote(以下、シンクリモート)」という現場のコミュニケーションツールを提供してきました。
シンクリモートを使えば効率化できるけど、それをお客様に知ってもらって業界全体に浸透させるにはコストも時間も膨大にかかる。そこで、自分たちでそのツールを使って、直接労働力を提供できた方が社会的なインパクトが早く、大きく出せるんじゃないかな、という考え方に至ったんです。
M&Aの背景についてはこちらのnoteをご覧ください。
江上:それは賢い選択だと思います。レガシーな産業で働く人々にデジタルツールを提供し、業務を変えてまで使いこなしてもらうって相当大変ですもんね。
下岡:事業承継という観点でも、黒字で事業が回っているのに、後継者がいないという理由だけで廃業してしまう会社も多いですよね。
江上:そうなんです。豊富な需要があり、人手さえ確保できれば利益を出せる産業はまだまだ多い。自動車教習所は傾斜産業ですが、業界全体が縮小していても新しいアプローチを導入すれば、まだ成長の余地は十分にあります。
下岡:確かに。こういったニッチな産業にデジタルやDXを掛け合わせることで、新しい価値を生み出し、新しいマーケットを切り開いていくことができる。そのようなプレイヤーも増えていきそうですね。
江上:そういう観点では、建設業はどのような市場環境なんですか?
下岡:建設業もまさに「人さえ確保できれば儲かる業界」になっていると思っています。私の父も北九州で建設業を営んでいますが、今回買収した会社も、私の父の会社も1970年に創業され、いまの社長が2代目で、ふたりとも70歳なんです!これには理由があります。
1972年に「日本列島改造論」という本を田中角栄が出されますが、ちょうど地方都市が次々に生まれ、都市インフラを急速に整備するために、一気に建設会社が設立された時期でした。それが創業者である祖父たちの時代です。
そこからしばらくは景気が良かったのですが、2000年以降は公共事業が縮小され、多くの建設会社が廃業・倒産の危機に立たされました。そのような苦い経験をしている2代目社長は、いまの子どもに積極的に建設会社を継がせようとしません。
一方、民間・公共ともに建設の需要は増えているので、「黒字で会社は回っているけど、後継者がいないので会社を売却したい」という会社が増えています。建設の需要が豊富にあるから、このような労働力を自ら保有し、自分たちのテクノロジーを導入して労働力を増大できれば、大きなビジネスになるのではないかと考えています。
江上:聞けば聞くほど、これから伸びる余地しかないと思います。課題はありますが、公共事業の需要は確実に増えていますし、業界をうまく変革すれば大きなチャンスがあるはずですよね。
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改革の挑戦とその苦労
下岡:江上さんは、自動車教習所を承継して、まずどういうことから取り組みましたか?
江上:最初は昔ながらの教習所のビデオ教材から変えました。いつの時代?というような教習用ビデオを教習所や免許センターで見ませんか?単純に「生徒さんが来たくなる教習所をどうやってつくるか」という課題に取り組んでいった中で、アニメーションの会社とコラボし、クイズ形式の番組などをつくりました。これが好評でしたね。
(参照:「次世代型学科教習!!今話題の教習所の授業映像がこれ!!」)
下岡:最初は集客がメインの目標だったんですね。
江上:そうです。「良い教習をして、来る人を増やそう」という基本的な考え方ですね。その他にも学科教習の一部をオンラインで提供して効率的に学べる仕組みを作ったりしました。
下岡:その変革はスムーズに進んだんですか?
江上:いえ、最初は全然スムーズではなかったです。会社が変身するためには、まず自分が変身しないといけないと考え、「かめライダー (自動車会社のマスコットキャラクターがカメ)」の着ぐるみを着て全社集会で会社の改革を宣言したのですが、半分の社員が辞めてしまいました。
当時、社員の多くが40代後半から70代でしたが、私の宣言直後に「教習所は面白おかしくやるところじゃないから」と社員に伝えているマネージャーもいたりして、心を砕かれました。教習所は「警察からの指示に従うだけが仕事だ」という価値観も強かったんですね。
下岡:半分ですか…。それはかなりの衝撃だったでしょうね。経営的には大丈夫だったんですか?
江上:正直、かなり厳しかったですね。でも、辞める人もいれば、新しい考え方に共感してくれる若い人たちも少しずつ入ってきてくれました。その人たちと一緒に、新しいコンテンツやDXを進めていく中で、少しずつ会社の雰囲気が変わっていきました。
そうやって続けていく中で、やっぱりお客さんが喜んでくれる場面を見ると、やってきたことは間違いじゃなかったと思えるようになりました。最初は本当に苦しかったけど、続けてきたことが少しずつ結果につながっていったのが光でしたね。
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変革を促す採用戦略と成長サイクル
江上:11年前くらいから新卒採用を本格的に始め、年間10人採用して辞めていった人たちの穴を埋めていきました。若い力が入ってくれたおかげで、会社が変わり始め、彼らが新しいコンテンツをどんどん生み出してくれるようになりました。
下岡:その後の流れは比較的スムーズに進んだ感じですか?
江上:そうですね。最初の混乱を経て新しい人たちが根付いた後は、だいぶ良い方向に進んでいきました。
下岡:社員が一定数確保できた後も、「人手不足」には苦労したんですか?
江上:はい、そのためにDXに着手しました。DX導入の目的は、一人の指導員が年間60人卒業させるところを、65人、70人と増やしていくことでした。そうすることで生産性を上げ、結果的に社員の給料も上げられる。良いサイクルを作るためにDXとコンテンツ力の強化に取り組みました。
下岡:ちなみに、私が最近PMI(※1)を進めている会社でも、技術者の平均年齢が55歳と高齢化しています。ただ、社長や社員たちはテクノロジー導入に前向きで、課題意識も強いです。それでも実際にやり始めたら反発が出るのではと心配しています。何かアドバイスはありますか?
※1 PMI (Post Merger Integration )とは、主に M&A 成立後に行われる統合に向けた作業であり、M&Aの目的を実現させ、統合の効果を最大化するために必要なプロセスのこと。
江上:社員がすでに心を開いている状態なら、受け入れられる可能性は高いと思います。私がきた当初は、すぐに打ち解けられるような関係性ではなく、その中で新しいビジョンを掲げたところ、大きな反発を受けることもありました。でも、丁寧にコミュニケーションを取りながら進めることで、少しずつ変化を促していけました。
下岡:同族じゃないっていうのも、意外といいかもしれないですね。僕も父の会社を手伝った時があるんですけど、建設業だったので「また息子が来て何かやりよるわ」っていう雰囲気が強く、相当やりにくかったんですよね。でも今回の我々のケースは第三者が入っていくわけじゃないですか。そうなると、逆にやりやすいのかもしれないなと思います。
江上:その会社がどう思われていたかにもよるでしょうけど、社員からすれば、「給料も低いし、雰囲気も悪いし、未来がないんじゃないか」って思っているとしたら、第三者が入ってきてくれるのはホワイトナイト的に捉えられることもあります。
実際に、私たちが引き継いだ宮古自動車学校の例をお話しすると、前の社長はもともと病院の総務部長をされていましたが、親族の急逝により、50代後半で突然会社を継ぐことになりました。経営の経験がない中で懸命に取り組まれていましたが、さまざまな課題に直面し、会社の立て直しが求められる状況だったんですね。そうした中で、私たちが引き継ぐことになった際には、温かく迎え入れていただきました。
下岡:確かに、同族だからこそ生まれる抵抗感はあるけど、第三者が入ると再スタートとして受け入れられるケースも多いですよね。
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後編はこちら!