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M&Aで切り開く地域産業の可能性~自動車教習所業界で革新を続ける「ミナミホールディングス」と「クアンド」が語る新たな挑戦~【後編】

今回の対談では、自動車教習所業界で革新を続けるミナミホールディングス代表の江上喜朗氏とクアンド代表の下岡純一郎が、事業再編や地域産業の未来について語りました。

前編はこちら!


改革の成功を業界全体に広げる

下岡:自社の改革が進んだ後に、M&Aや新規事業に進んだ経緯を教えていただけますか?

江上:実はM&Aよりも新規事業が先でした。例えば『教習所求人ナビ』という、若手指導員や指導員候補の採用に特化した求人媒体を開発し、全国300校ほどが利用しています。自社で生まれたノウハウを商品化して業界全体に広げる形です。

下岡:自社の改革で創り上げたソリューションを活用して、業界全体をトランスフォームしようとしたんですね。

江上:そうです。教習所の経営者向けに本を書いて全国に配布したり、セミナーを開催したりして、自動車学校改革のノウハウを共有しています。その中で、『DON!DON!ドライブ』というエンタメ教材や『教習所求人ナビ』に加えて、AI教習システムの開発も進めています。これは、自動運転技術を応用して、指導員がやっている運転評価や教育をデジタルで代替するものです。教官が横に乗らずに技能教習ができる仕組みです。

運転データを収集し、リアルタイムでフィードバックをすることで、生徒は自分の運転を映像とデータで振り返ることができます。現在、このシステムは法改正の必要性から公的に認められていませんが、ロビー活動を通じて実現を目指しています。

自動車教習、先生はAI 全国初、福岡の教習所などシステム開発ー西日本新聞

下岡:改革のノウハウを業界全体に広げた後、次のステップとしてM&Aに進んだんですね。

江上:そうですね。業界全体のDX推進や優れたコンテンツ提供を目指す中で、他の教習所を買収し、効率化を進めています。例えば、経営が厳しい教習所を買収し、我々のノウハウを導入することで、収益改善を図っています。教習所業界は地域性が強い一方で、新規参入が難しいため、既存の施設を統合する形で成長を図るのが効率的です。

南自動車学校の様子

物流業界の人手不足を見据えた挑戦

下岡:海外で教習所を運営し、それを物流業界と結びつける狙いはどのようなものなのでしょうか?

江上:現在、カンボジアとベトナムで教習所を運営していますが、教習所単体で大きな利益を出しているわけではないんです。

「ドライバー不足」という問題が深刻化すると予測し、外国人ドライバーを技能実習生として受け入れる未来を見据えていました。カンボジアなど現地で運転教育と日本語教育を行い、最終的に日本に送り出すことが私たちの役割だと考え、この取り組みを始めたんです。そして、2024年には運送会社を完全子会社化し、海外教習所で育てたドライバーが日本で運送業をできるようにしました。

下岡:なるほど、そうした狙いがあったのですね。日本でのドライバー不足と物流業界の供給不足という問題は、江上さんの中で最初から繋がっていたのでしょうか?

江上:いえ、最初は環境インフラの分野に参入して収益を上げ、そこに社会的価値を付加するという取り組みと、海外の教習所で教育して日本の労働力不足を補おうというアイデアは別々に考えていました。ただ、それらが後に繋がり、「これ、一石二鳥じゃないか!」と気づいたんです(笑)

下岡:その頃は、まだ世間一般では人手不足がそこまで注目されていなかったと思います。それをいつ頃からお考えだったのでしょうか?

江上:2017年か2018年頃ですね。ただ、ドライバー不足が深刻になるという話は、トラック協会などが以前からロビー活動で訴えていました。

下岡:そうだったんですね。戦略として非常に分かりやすいですが、実際に取り組んでみて狙い通りに進んでいますか?

江上:今のところ予想通りの成果は出せています。ただ、これから先が勝負どころです。現状、業界における参入障壁もそこまで高いわけではありません。7、8年前から海外での取り組みを始めてきたこと自体が大きな強みにはならなくなってきており、他社との競争にどう勝つかが課題ですね。

下岡:なるほど。自動車教習所の運営を起点に、物流業界の人材育成や物の輸送にまで事業を広げている点が、江上さんの面白いところですよね。自社の価値を「免許を取得させる自動車教習所」ではなく、「日本の物流問題を解決する会社」と再定義しているところが最高に面白いです。

江上:そうですね。事業体を持ちながら、ポートフォリオを構築する必要性を感じています。また、「教習所だけでは面白くない」という私自身の感覚もあります。だからこそ、運送業も買収し、新しい領域に踏み込んでいます。

クアンド代表 下岡 純一郎

デジタル・リアルの融合

下岡:今の時代で面白いと思うのは、昔は一つのマーケットでシェアを取って拡大できた事業が、今はAmazonのように、発注から配送まで事業の境目をなくし、すべて自社がEnd to Endでやるスタイルが生まれていることです。この流れは他の業界にも広がっていくんじゃないかなと思っています。

江上:まさに、newmoの青柳社長がタクシードライバーとして現場に出る時代ですからね。

下岡:本当にそうですよね。一つのマーケットは縮小しているように見える昔ながらのレガシー産業でも、切り口を変えればまだマーケットが成長しているところもありますよね。

江上:確かに。成長を目指すプレイヤーが増えたことで、それぞれの業界だけで完結するのは限界があるんでしょうね。

下岡:今、産業構造を再編していく中で、デジタルとリアル資産をどう組み合わせていくかが一つのテーマになっています。江上さんは外部との連携を積極的にされていますが、ティアフォー(自動運転ベンチャー)やアニメーション制作会社とのコラボもその一例ですよね。自社で完結させる選択肢もあったと思うのですが、なぜ外部と組むのでしょう?

江上:確かに、自社だけで全て揃えれば利益率を上げたり、展開をしやすくできるのですが、やりたいことを最短で実現するには外部と組む方が有効なこともあります。例えば、自動運転技術の要素開発は自社でやるにはハードルが高いですよね。ティアフォーのような尖った技術を持つ会社との連携は不可欠でした。

下岡:ティアフォーとの連携はスムーズに進みましたか?

江上:割とスムーズでした。ティアフォーも当時は十数人規模のベンチャーだったので、技術を試す機会として「AI教習車」のような中間生成物はちょうど良かったのだと思います。自動車教習所を持つ私たちと組むのは、彼らにとっても戦略的にメリットがあったのでしょう。利害がぶつかる場面もありましたが、スピード感を優先するなら外部との連携は正しい選択でしたね。

下岡:今後、デジタルだけでなく、リアルとデジタルの掛け合わせが競争優位性に繋がっていくと感じますが、江上さんはどうお考えですか?

江上:そうですね。日々感じるのは、PDCA(計画・実行・検証・改善)サイクルの速さです。例えば、技術を開発したらすぐに実車でテストできる環境があるのは大きな強みです。試作品を作り、教習所のコースで実験して、すぐに改善してまた実験、といった具合で、一日に何度もサイクルを回せます(笑)

下岡:スピード感がありますね!私たちが「シンクリモート」を試験導入する際、建設会社に協力をお願いして現場調整をするだけで最短でも1か月先になることが多いです。他にはどんなメリットを感じますか?

江上:現場を100%把握できる点ですね。課題を見つけたり、利益率や効率を改善したりと、迅速に対応できるのが大きいです。また、現場とのやり取りがスムーズなので、例えば「来月からオンライン学科を導入します!」と伝えれば、多少不安の声はあっても、実際にやってみると社員が「これ、いいですね」と納得してくれることが多いです。自発的に受け入れてくれる環境は非常に助かりますね。

左:クアンド代表 下岡 純一郎/右:ミナミホールディングス代表 江上喜朗氏

産業構造の再編~リアルとデジタルの融合で創る新しい価値~

下岡:最後に、江上さんは今後、ミナミホールディングスをどのような形にしていきたいと考えていますか?

江上:クアンドの取り組みに似ている部分もあると思います。私たちが目指しているのは、業界全体を変革して労働生産性を向上させることです。その結果、働く人たちも、サービスを受ける人たちも豊かになる、そんな世界を実現したいですね。

特に伝統的で重要な産業では、一つ一つ課題を解決することで、日本全体の社会を底上げする力になると信じています。ITやソフトウェアで世界を変えようとする企業は多いですが、教習所のような分野で同じことをやろうとする人は少ないですよね。

下岡:確かにそうですね。有名な投資家が、「産業のテーマは30年ごとに変わる」と言っていました。1970年頃のプラザ合意では、輸出入を効率的に行う企業が成長し、1990年代からはデジタル化が進んで、Facebookや楽天のような企業が成功しました。

そして今、次のテーマは産業構造の再編だと言われています。つまり、需要はあるけれど、古い仕組みで動いている分野を新しく作り直すことが求められているんですね。

クアンドの場合、建設業に取り組んでいますが、江上さんがおっしゃったように、確実な需要がありながら、人手不足が課題のレガシーな産業にリアルとテクノロジーを掛け合わせることで生産性を上げて、働く人たちがもっとやりがいを持てる仕組みを作っていきたいです。

江上:おっしゃる通りです。リアルとテクノロジーの掛け算は、単なるデジタル製品だけでは難しい差別化を可能にします。ただ、IPOを考えると、リアル資産を持つことは資本効率が悪いと見なされがちで、あまり歓迎されないのが現実です。

下岡:確かにそうですね。普通の建設業のように見られると、PSR(売上高倍率)やPER(株価収益率)が低くなりますよね。でも、どう事業を定義し、見せるかで評価は大きく変わります。

その好例が、GENDAという会社です。リアルなゲームセンターを買収・統合しつつ、デジタルネットワークやIP(知的財産)の価値を認められて、高い評価を受けています。リアルとデジタルをどう組み合わせるかで、新しい価値が生まれるわけですね。

江上:まさにその通りです。リアル資産の評価が見直されてきているのは、こうした変化の表れだと思います。自動車学校をたくさん買っていくという足し算ではなく、掛け算でどんな価値を生み出せるかが重要です。

下岡:ライドシェアの例でも、単なる配車アプリではなく、カーリースや給与などの金融サービスを組み合わせることで大きな利益を生み出せるでしょう。こういったリアルとデジタルの融合が、これからのビジネスの主流になっていくのではないでしょうか。

江上:そういう流れは、教習所や物流、さらには他のニッチな産業にも広がっていくと思います。例えば、車のローン未払時にエンジンを動かなくする技術など、新しいサービスの提供が考えられます。こういったチャレンジは今後も増えていくでしょうね。

下岡:これからはデジタルだけでも、リアルだけでもなく、両方をどう組み合わせるかがビジネス成功のカギになりますね。

江上:本当にそうですね。どんな事業でもリアルの強みを活かしつつ、新しい価値を作り出していくことが大事です。

左:クアンド代表 下岡 純一郎/右:ミナミホールディングス代表 江上喜朗氏